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日盲連ニュースから


1.「白杖SOS」知って ポーズ普及に関係団体本腰
2.<私のなかの歴史>福祉工学研究者 伊福部達さん


1.「白杖SOS」知って ポーズ普及に関係団体本腰
 白い杖(つえ)を体の前に高く掲げ、立ち止まる人がいたら何を意味する
か、ご存じだろうか。視覚障害者が助けを求めるポーズで、「白杖(はくじょ
う)SOSシグナル」と呼ばれる。考案されて四十年近くがたつが、一般に知
られておらず、障害者団体は普及に本腰を入れ始めた。九日まで「障害者週
間」。
 「いつもと逆の方向に向かったら迷ってしまった。ちょっと困ったな」。七
月の夕方、東京都新宿区内。団体職員小川敏一さん(34)=埼玉県富士見市
=が白杖を掲げ、歩道に立ち尽くしていた。
 生まれつき弱視だった。右目は光を感じる程度。左目は矯正しても視力が
0・03で、視野欠損がある。それでも週に五日、福祉器具を販売する新宿区
内の職場に一人で通っている。電車を乗り継ぎ、一時間弱の道のりだ。
 この日の帰宅時、いつも使う地下鉄が止まっていた。少し離れたJRの駅に
向かおうとしたが、慣れない道だったため、自分の位置がわからなくなった。
 路地に迷い込み、壁から突き出た看板にぶつかったり、自転車に当たったり
することがよくある。切羽詰まってSOSのポーズを取った。小学生の時以
来、二十数年ぶりだった。白杖を握り、拝むように頭上に掲げる。「たぶん、
誰も知らないだろうけど…」
 一分ほどたっただろうか。大学生風の若い男性に「どうしましたか」と声を
掛けられた。「肩を貸してもらえませんか」
 男性の助けで横断歩道を渡れた。「声を掛けられるまで、体感的には一分よ
り長く感じた。分かってくれて、ほっとした」
 ポーズは一九七七年に福岡県盲人協会が考案した。視覚障害者が街に出始め
た時代。当時を知る小西恭博会長(79)は「われわれも助けを求めることに
及び腰で、あまり普及しなかった」と振り返る。
 日本盲人会連合の二〇一三年の調査では、視覚障害者の50・4%が「ほぼ
毎日外出する」と回答し、社会参加の進展でSOSが必要な場面も増える。点
字ブロック上の障害物、道路工事…。健常者には何でもないことが、視覚障害
者の感覚を狂わせる。日盲連は今年五月にポーズの活用を決議。シンボルマー
クも定め、十月からは内閣府のホームページで紹介されるようになった。
 日盲連の鈴木孝幸副会長(59)は「近年は歩きスマホの人がぶつかった
り、その結果、白杖が折れるトラブルも起きている」と、社会の無関心を懸念
する。「欧米やアジアでは、普段から健常者に声を掛けてもらうケースが多
い。日本でも、私たちのことを気にかけてもらえれば」

2.<私のなかの歴史>福祉工学研究者 伊福部達さん
 目の見えない侠客(きょうかく)が敵をバッタバッタと切り伏せる。映画
「座頭市」の有名なシーンです。架空の話と思われがちですが、全盲の人たち
の多くが手探りもせずに障害物を上手に避けて歩くことが知られています。
「気配」を感じるこの能力は「障害物知覚」と呼ばれ、1940年代の米国・
コーネル大の研究で音に基づくことが実証された後は研究が途絶えていまし
た。
 これを福祉に生かそうと、気配の研究を始めました。障害物によって、聴覚
に伝わる音がどう変わるのか。視覚障害者はその変化をどう捉えているのかが
テーマ。90年ごろ、北大応用電気研究所でのことです。大学院生の一人が高
等盲学校(現・札幌視覚支援学校)の先生や生徒の協力を得て、実験に取りか
かりました。
 全盲の生徒3人に体育館の壁に向かって歩いてもらい、どこで壁に気づくか
を試しました。彼らは数メートル手前で「自分の足音が反射してくるのが聞こ
える」、約3メートルに近づくと「反射音の方向が変わり、何かがあるような
感じがする」と言いました。さらには30センチくらいまで近づくと「何かに
ぶつかりそうだ」と全員が止まりました。
 反射音によって物の存在を知るのは、コウモリと同じ「こだま定位」で、白
いつえで道路をたたいて周りの様子を知る方法として古くから行われていま
す。しかし、私たちは「さらに何かがある」と考えました。
 体育館の中では、ガヤガヤという「環境雑音」が響いています。これが関係
しているとの仮説を立てました。被験者をいすに座らせて、手前に置いた板の
距離を変え、耳に入る環境雑音の波形の変化を調べてみると、極めてわずかで
すが、距離に応じて変わっていました。直接耳に入る雑音と板に反射してから
入る雑音が混じり合ってできる「カラーレーション」という現象です。これに
よる音色の微妙な変化で「見る」。これが気配の正体だったのです。
 それから十数年後、この研究はソニーに勤める全盲の社会人大学院生・鈴木
淳也君が後を継ぎました。音を立てずに人形を彼の周りで動かす実験をしたと
ころ、彼は人形のある方向や大きさ、材質などを見事に言い当てました。しか
し、音の全くない無響室では、人形の存在に気づくことさえできませんでし
た。障害物知覚に環境雑音の微妙な変化が不可欠であることが、あらためて裏
付けられました。
 障害物知覚は、視覚を失った代償として脳の深部で眠っていた別の機能が働
く「脳の可塑性」のたまものです。カラーレーションを強調すれば、もっとよ
く気配を感じることができるでしょう。ロボットに応用し、障害物をよけさせ
ることも考えられます。やがては座頭市を超える、気配で動く剣豪ロボットが
生まれるかもしれません。
by wappagamama | 2015-12-12 08:07
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