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柿崎妙子治療院日記「治療か名利に尽きる芋の子汁」


 治療開始から二ヵ月半が経過した11月上旬のこと。

 玄関を開けるなり、「柿崎差ぁーん チョットチョットチョットぉ~」とやけに元気のよい声がする。
チョット いや だいぶ興奮気味のその患者さんがまるで転がり込むかのようにして入ってきた。
「まず早ぐ手出せ!」と私の手に触らせたものが大きなきのこ。
「これどうしたの?」「まずまずまで ハイ次がこれ、まだまだある これも」
と次々と私の手の中にいろいろな形色々な触感のものが… 
それぞれ私の手に触らせたと思ったら、今度はそれを流し台のほうに持っていった。
その間もなにやら興奮してしゃべっているがなんだか良くわからない。

 やっと治療室に戻ってきたと思ったら、私の手を握り締めながら上下に振っている
「あのよ まじ おじづげ」と自分に言い聞かせているのか 大きくため息をついたと思ったら「かぎざぎさん おれよ まずすごいどおもわにゃが? あのよ バイクで山さいってきのごとってきたなしゃ! すごいどおもわにゃが?」
私はあっけにとられて、「うそだべ? まじが?」と狐につままれているような気分。

 聞くと、だんな様となにやら大喧嘩をして腹立ち紛れに、愛用のバイクで山できのことりをしてきたとのこと。
その愛用のバイクとやらは長い間家族から乗ることを禁止されていたらしく、鍵も娘が管理していたらしい。
夫婦喧嘩の一抹を知ってか しら図化、その娘がバイクに乗ることを許可したとの事
私は理解に苦しんだが、聡明な娘が判断したことだから、それなりの考えがあってのことだろうと思うしかなかったが、それにしてもなんと無謀な話だろう。

 二つ気前までには食事もろくにとれずに寝てばかりいた母親だったが、ここ二月ほどの間の母親の顔色・行動を見守っていたであろう、娘がくだした判断なのだろう…雨模様となっていた天候も心配だったろうが、「ガッシリとカッパを着ていげよ」といって鍵を手渡したらしい。そのときの娘の気持ちはいかばかりだったろうかと思うと… だが 詳しい事情はよくわからないが彼女のとったその判断はまさに彼女らしい!
そして「柿崎さんさ予約しておくからまずきつけていってこい」と背中を押してくれたとのこと。


ひとしきりしゃべり終わった合間を見てわたしは「よくバイクさ乗っているどぎ 目まわらにゃがったごど? よぐ きのごとるどぎ 目まわらにゃがったごど?」といったらその患者さん手をたたいて「あらぁ~ ほんとだ なしてだべ? 不思議だな? 気がつかなかった」と神妙な顔になって固まった。
「もうRさんの体は頭も心も病人になっているのが飽きたんだよ キット 知らないうちにいつの間にか元気な体に戻ろうとしていたんだよ キット」 だんなさんと大喧嘩したのをきっかけで全身の細胞にスイッチが入ったんだよ キット」といったら 「あぁ~ んだべが? んだがもしれにゃな? あやぁ~ せば とおさんさ 感謝しにゃ場で儀ねな?」


 自分でとってきたきのこを私に食べさせたいと持ってきてくれたその患者さん。
とても珍しいきのこなのだとか。よいだしが出るので、芋の子汁にして食べなさいと…
当然 その日の食卓には、香ばしくてよくでただしの香りが 私を幸せにしてくれた
これぞまさしく 治療か名利に尽きるひと時だった…
by wappagamama | 2013-11-11 17:23
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