こうやって 約3ヵ月半、なんのくったくもなく綾ちゃんは私と付き合ってくれた。
「なんのくったくもなく」と簡単に書いたが、その」なんのくったくもなく」という言葉の意味は深い。
「おしゃれのこと」・「ドンコの調理方法のこと」・「車のこと」・「おいしいケーキ屋さんのこと」・「ふるさとの懐かしい食材のこと」・「そして他人にはいえない「心の悩み」
などなど 彼女は何でも「くったくなく」私に話してくれた。
いろんな意味で綾ちゃんは私と普通に付き合ってくれた。
どんなことにでも遠慮なく積極的に付き合ってくれた。
それは綾ちゃんの性格カラ出ている言動のようだ。
半身不随の旦那様の介護をしているということが、自然に身についている綾ちゃんは、私に対しても考えるまもなく何気なく手助けをしてくれる。
ところがそのうち、私が視覚障害者ということをケロッと忘れてしまうらしく、「あ ごめんごめん 忘れてた あんた 普通に動いているんだもん 目が見えないなんて思えないよ」とアッケラカンとしている。
でも 私敵には、そうやって時々忘れられていたほうがどちらかといえば気が楽。
気にしすぎて必要以上に手や口を出されているほうがうっとおしくなることがある。
その辺の兼ね合いが微妙なので相手も疲れるのだと思う。
そんなこんなの前後左右を気遣わなければいけないと思ってしまえば、面倒になるので、誰も声をかけてくれなくなるのだと思う。
どこか体が不自由だということのほかに、どうやって付き合えばいいのだろうと考えるから面倒になるのだと思う。
相手もそうだと思うけど、私自身も同じ事を考えてしまう。
だから、長年同級生とか同窓生とか健常者との友達付き合いができなかったのだと思う。
そんな心のバリアーを全く持たないで付き合ってくれた綾ちゃんはすごい!
相手が考えたり悩んだりする暇もなく、単刀直入に心のままに付き合ってくれた。
この年になるまでこんな素敵な関係ができたのははじめてだったようなきがする。
そんな意味でも綾ちゃんが湯沢にいてくれた約3ヵ月半、私はとてもとても楽しかった。
と同時に、綾ちゃんがまた陸前高田に帰る、そんな当然のこと…
そんな当然のことなのに、私の心にはポッカリと穴が開いてしまった…