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わたしの治療室から その3


 お話が脱線しマクっていルついでといっちゃー なんですが…?。
大根の話で思い出したことがあります。
前回の大根のお話は、どことなく身が痛くなるような笑えない笑い話でした。
でも今度の大根のお話は、正真正銘 心の痛くなるお話です。

 今から3年ほど前の初秋のことです
知人から紹介されたといって、五十台半ばのひとりの女性が来院しました。
本人のお話によれば、3年ほど前から更年期障害のような不定主訴があり、かかりつけの主治医へ通っているが、症状は思わしくなく、主治医に心療内科を勧められている。とのことでした。
現在のその患者さんの一番不安に思っていることを尋ねたところ、ポツリポツリと語りはじめたが、言いたいことがうまくことばにならないらしい、
それではと 質問の内容を変えて、「今まるまるさんが一番つらいところはどこですか? そして それさえなかったらどんなに楽に成るか?というところはどこですか」と尋ねたら、今度は立て板に水津式に語り始めた。

 患者さんの訴えたことをまとめるとこうゆうことでした。
ひとつには、冷蔵庫を開いてもソノ仲に入っているもので何を作ればよいのかわからない。どうやってご飯の支度をすればよいのかわからない。そしてふたつめは、主治医が怖い。
自分が若いころその主治医が開業する医院に、事務として努めていたことがあり、クスリの内容を知っているので、自分が飲んでいる薬のことを主治医に聞いたところ、思いもよらない怖い顔で怒られたとその恐怖を語った。
そして、他の病院へ行くようにといわれていると、そこまで話したらこらえているものがあふれたかのように泣き出した。
ベッドの上で膝を抱えて、丸くなって泣いているソノ肩をそっと抱きしめたら、細くやせた体が力なく小刻みに震えていた。
 

 主婦の仕事が何もできなくなったばかりが、夫や息子に負担をかけていることの心苦しさ。
何を食べても味がしない。
これから自分はどうなっていくんだろうと将来の不安などなど自分自身を見失ってしまって苦しんでいる様子が痛々しく感じました。

 その後治療を受けたあとは気分がよくなり、何かをしたい気分になると言って、4・5日間隔でせっせと通ってきていました。
それから一月半くらいしたころ、「しぇんしぇ 大根持って来ました」と 見事に育ったすごく大きな大根2本、新聞紙にも包まないで袋にも入れないで冷たい裸のまま胸に抱きかかえて立っています。
わたしが手を添えるとその大根はずるっと足元に落ち、ソノ大きさにビックリしました。
大根を作ったのがご主人、そして昨日収穫し洗って泥を落としてくれたのが息子さん。いつもだったら自分と旦那様と二人でやっていた作業だった。
初めてやった息子さんは要領がわからず大根を洗うのに力を入れすぎて、大根のその肌は皮が剥けて痛々しい。

 そして治療が始まった。
ふっと気が付くと、すすり泣きをしているようだ。何か心配事があるのと尋ねると、口を開いた。
もしかすればもう 先生のところへ来れなくなってしまうかもしれない」とのこと。鍼灸治療に通っていることを、息子さんが主治医に話をしたら、勝手にしろと怒られたとのこと。 
なんと理不尽なことか!
それを聞いた私も腹がたったが、患者さんの気持を考えると何も言えない。
家族や主治医に見捨てられるようなことになったら大変だと思うのは当然です。
鍼灸の治療をはじめてから、自分の状態がどのように変化したか、せめて 家族にだけでもわかってもらうしかないと説得したが…。

  かなしいかな この辺の田舎では、医者も患者家族も、東洋医学の鍼灸に関しての認識は非常に低く、ましてや 「経絡治療」ともなればなんのこっちゃッテ感じです。

 こすりすぎて皮の剥けた冷たい大根を抱いていたその患者さんはやはりそれっきりになってしまいました。
以来大根を手にするたびに、その患者さんのことを思い出し、心が痛くなります。

開業して9年になろうとしていますが、最近やっと「経絡治療」のよさが認められてきました。
ほとんどは経験した患者さんからの口コミです。
「嬉しいXmasプレゼント」の記事でも紹介しましたが、あのようにして、体験して認めてくださった方からの口コミが確実に広がってまいりました。
鍼灸マッサージといえば 整形外科的疾患の適応カと思われがちですが。実際は そうではないことをもっと広く理解していただけたらいいのになーと思っています。
by wappagamama | 2008-01-12 14:06
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