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共感した ある情報誌のコラムから…

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【編集者コラム】
お付き合いは長さより濃さ


 よく本誌では私が役員の一翼を担っている『バリアフリー映画鑑賞推進団体 CityLights(シティライツ)』の同行鑑賞会のお知らせを掲載していますが、このシティライツの活動には他にもいろいろな要素があります。
 その内の一つが、外国映画の吹替えのない作品に、独自で吹替えを付ける「字幕朗読ボランティア」の活動です。
吹替えと言っても、テレビ放映される映画のそれとは違い、あくまで字幕朗読なのです。
鑑賞してもらうときには、片耳に入れたイヤフォンで画面の音声ガイドと字幕朗読された日本語を聞き、空いたほうの耳で場内に流れる映画本編の音を言語で聞くことになります。
そのときに、元の役者さんの声のトーンや強さ高低差などと、字幕朗読の声のトーンや強さ・高低差、ニュアンスに差があると、聞いている側としてはかなり疲れてしまいます。
 つまり、日本語を読む人間が独自の演技をするのではなく、元の役者さんの言葉を補うということに特化した読み方をするわけです。
 この字幕朗読のボランティアに参加してくださっているのは、プロアマ問わずの舞台経験者・声優さんたちなどなのですが、この「元の声に合わせる」というところにかなり苦労してくれています。
 斯くいう私も、その場で画面を読まなければならないケース以外、予め録音しておくタイプの字幕朗読には、ボランティアの一人として、台詞台本を点訳して収録に臨んでいます。

 この活動、2002年の調布映画祭での『風と共に去りぬ』から始まり、今年でかれこれ13年やってきているので、メンバーもある程度定着しています。
 特に、数年前からは、岩波ホールで上映される多くの外国作品に、この「字幕朗読」を付けているので、必然的にレギュラーメンバーが顔を合わせる機会が増えています。

 先日、13日にも、いま岩波ホールで上映中の『夏をゆく人々』という映画の字幕朗読を収録しました。
 このとき、初参加してくれたのが、みなみちゃんという若い女性でした。
 彼女は、たまたま視覚障害者の役を演じたということでいろいろ興味を持ってネット検索をしていて、私たちシティライツの同行鑑賞会のことを知り、ボランティア登録してくれたのだそうです。
 でも、まず参加してくれたのが、同校鑑賞会の誘導ボランティアとしてでした。
 8月30日に行われた木村拓哉さん主演の『ヒーロー』の同行鑑賞会に参加したみなみちゃんは、実際に視覚障害者に接したのはこれが初めてでした。
ラジオを借りて「音声ガイドとは何ぞや」も体験し、ご夫婦で参加の視覚障害者を誘導し、終了後には、盲導犬ユーザーさんと一緒に、私たち・ばっかりばっかりの『朗読縁日』にも梯子してくれました。
 その後も、私とあれこれメールのやり取りをして、次の鑑賞会9月5日の『インサイド・ヘッド』にも誘導ボランティアとして参加してくれました。
 そのやり取りの中で、字幕朗読ボランティアのことも説明してお誘いしてみると、元が役者さんですから当然のごとく興味を示してくれて、13日の収録に参加することになったというわけです。
 途中から入ってきたみなみちゃんは、極自然に私の隣の椅子に座って、「緊張しますね!皆さん、すっかり仲良しみたいで…」と、少し気後れした様子ではありましたが、普通に会話してくれてました。
もちろん、可愛らしいお声にぴったりの少女の役を担当してくれて、その間、さりげなく私の誘導してくれたり、言葉とは裏腹にかなりなじんでいるような感じでした。
 メールのやり取りは何度かあったものの、実際に会ったのはこれが2度目ということになるのですが、なんだかもう、だいぶ前からお友達だったみたいな親しさを感じました。

 一方、この収録メンバーの中で、ある意味にぎやかなムードメーカーとなっているS君という男性がいます。
 彼は、もう数年前から字幕朗読ボランティアとして関わっていますが、私の知っている限りでは、視覚障害者を誘導した経験はほとんどないと思います。
 誰にでも親しげに話しかける彼で、私のこともニックネームの「めーたん」で話しかけてくれたりもします。
 ところが彼にとっての私は、たぶん「視覚障害のおばさん」という存在以外の何物でもないようなのです。
しかも彼は、自分が字幕を読んで協力している活動がどういう物なのか、いま一つピンときていないのではないかという節が感じられます。
 もちろん、彼だけではなく、女性メンバーでもそういう人は何人か身請けられ、「今度、シティライツのメンバーで飲みにいこうよ」イコール「字幕朗読ボランティア仲間で…」だったりするのです。
それも、視覚障害メンバーである私には、声を掛けてはきません。悪気はないのでしょうが、何か異質の存在、その存在にどう接していいか判らないといったところなのでしょう。

 で、なぜこんな話をここで書きだしたかというと、件のS君のその日の言動に「あれれれー!?」と思ってしまったからなのです。
 彼、仕事の都合でスタジオ入りが遅くなっていたこともあってか、そんなに気を遣わなくても良いのに、ケーキを買ってきてくれたのです。甘い物好きな私、もちろん大喜びです。
 「じゃぁ、女の子たちから順番に選んで。あ、めーたんの分は、大輔さん(うちの夫です)が選んであげて。」
 …悪い人じゃないんです。でも、知り合ってから5年くらいは経っていると思うのに、「今残ってるのは、チーズケーキとモンブランと…。でどれがいい?」
にはならなかったんですね!まぁ、そうやってもらうことにこちらが慣れ過ぎていたのかもしれないけれど、かなりびっくりしてしまいました。
 夫は、当然のように私をケーキの箱のところまで連れていき、何が残っているのかを説明してくれたんですが、S君、きっとそれだけではぜんぜんピンときてないんだろうなと、心の中で苦笑してしまいました。

 たまたま同じ日に、知り合ったばかりなのにすっかり自然に打ち解けてしまったみなみちゃんと、数年の付き合いがあっても何も知ろうとしてくれていなかったS君の違いを目の当たりにし、これは一つコラム欄で書いてみようかなと思った次第です。

 前にも書いたことがあると思いますが、私が若い頃からやっている活動は、どれもこれも、見える人と見えない人が一緒に活動するタイプのグループです。
 シティライツの平塚千穂子リーダーも、「視覚障害者のためにやってあげたいな」ではなく「視覚障害者とも一緒に映画を楽しみたいな」という気持ちから始めてくれた活動なのだから、それを彼らにも感じてもらわなければ。
 字幕朗読ボランティアのレギュラーメンバーとは、S君も含めて、facebookでつながっていたりするので、これは一つ、彼ら・彼女らも、もっと積極的に同行鑑賞会に参加してもらい、自分たちがやっているボランティア活動の先にいる「視覚障害者」と生身で接してもらう機会を作らなければと、改めて感じた1日でした。

 ちなみに、『夏をゆく人々』の同行鑑賞会が企画されていますので、なんだかとても変わった作品ではありますが、良かったらご参加ください。私は先約とかぶってしまったので参加できないのですが、どんな風に字幕朗読が仕上がったのか、聞いてみてください。

 以下、ご案内です。


『夏をゆく人々』作品紹介
 第67回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品
 イタリア・トスカーナ地方の人里離れた地に暮らす一家。
 気難しい父を中心に養蜂を営み、頼りになる長女のジェルソミーナが技術を継承していた。
 村ではテレビ番組の撮影が行われることになり、ジェルソミーナはひそかに気になっていた。
 そんなある日、ドイツ人の少年が「少年更生プラン」の一環で一家に預けられることになり……。

日時: 9月21日(月曜・祝日)
劇場: 岩波ホール
上映作品: 夏をゆく人々
上映開始: 16時30分(映画は111分です。)
集合: 15時40分 岩波神保町ビル1階エレベーターホール(神保町駅A6出口直結)
鑑賞料: 1400円。(晴眼者も一律)
ガイド方式: 字幕朗読+音声ガイド付き上映
       音声ガイドと字幕朗読は収録してあるものを放送します。
       ラジオは、FM周波数88.5MHzに合わせてください。

申込締切
9月17日(木) 24時まで受付ます。




みんなが同じ方向を見る必要はないけど、せめて目的が何七日くらいは…
by wappagamama | 2015-09-15 22:50
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