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盲導犬刺傷事件に思う


受信日時 : 2014年 9月10日(水曜) 15時54分

「盲導犬が刺された事件について思う」
        元全日本盲導犬使用者の会会長 清水和行(広島市)
 新聞報道などによりますと、7月28日、埼玉県の盲導犬使用者が通勤のために同伴していた盲導犬が、何者かによりフォークの様な先の尖ったもので右の腰辺りの3・4箇所を深さ1~2cm刺され負傷させられたという事件がありました。使用者は職場に到着したとき、同僚に盲導犬の出血について知らされ初めて気付いたとのこと。
 治療した獣医師も、日常生活では起こりえず、よほどの力が加わらなければできない傷だと言っているようです。埼玉県警も器物損壊容疑で捜査しているようですが、いまだに加害者は見つかっていません。盲導犬使用者として、また一視覚障害者として見過ごせない事件です。
 この事件の問題点は無抵抗な盲導犬が傷つけられたということです。私の知っている盲導犬使用者にも、横断歩道で待っているときにたばこの火を盲導犬の体に押しつけられたという人がいます。正に今回の事件のような出来事です。
 「盲導犬はおとなしい」「盲導犬は尻尾をふまれても怒って吠えたり噛んだりしない」そんなことを試すかのような嫌がらせです。今回の事件の加害者がどのような意図で盲導犬を傷つけたのか分かりませんが、無抵抗な盲導犬に刃を向けた行為は許されるものではありません。
 しかし、それ以上に問題なのは、加害者が盲導犬使用者、すなわち視覚障害者をターゲットにしたということではないでしょうか。加害者の顔や特徴を見ることができない、逃げることもできない、そんな視覚障害者が被害にあったことです。
 私の妻も盲導犬使用者ですが、バイクに乗っていた不審者に自宅まで後をつけられ、危ない目に合いそうになったことがあります。私自身そんな目に合ったことはありませんが、いわゆる「おやじ狩り」のターゲットにされればひとたまりもないでしょう。できるだけ安全そうな道を歩くなどの自己防衛を心がけることはもちろんですが、やはり社会全体の治安を保つことが最も大切になるでしょう。
 私の子供のころはサザエさんの家のように玄関の鍵をかけていない家がほとんどでした。しかし、今ではそんな家は少ないのではないでしょうか。子供にも防犯ベルを持たせる学校もあるようです。比較的治安の良い日本でも、自らを守ることを考えなければならない時代になったのかもしれません。残念なことです。
 ところで、今回のマスコミの報道やニュースキャスターのコメントなどにも、少し違和感を感じています。「盲導犬は厳しい訓練に耐えて視覚障害者のために働いている」「盲導犬はむやみに吠えないように訓練されている」「盲導犬は何をされても我慢して鳴かない」「盲導犬は神経を使うために寿命が短い」これらは全て誤った理解です。
 盲導犬の歩行指導員も使用者もボランティアも盲導犬には愛情を持って接し、また盲導犬も使用者や人間を信頼しています。決して盲導犬が犬として過酷な使役を強いられているものではありません。今回の事件がこのような盲導犬に対する誤解のために生じたものではないと思いますが、マスコミの皆さんには盲導犬に対する誤った理解が進むことのないようにご配慮いただきたいものです。
 この度の事件は私たち視覚障害者にとって大変ショッキングなものでありました。しかし今はおちついて事件の行方を見守っていく時期だと思います。まだ加害者も逮捕されていません。犯行の動機も分かりません。事件の背景に何があったのかも分かりません。これらのことが明らかになってから、冷静な取り組みを進めていくことが賢明ではないでしょうか。
 この事件を補助犬使用者の問題、あるいは障害者の問題として捉えるだけでなく、我が国に暮らす人々全体の問題として取り組んでいけるようなしなやかな運動として広がっていくことを望みます。
by wappagamama | 2014-09-11 07:21
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