三陸ものがたり5


三陸物語:視覚障害の兄妹・中村亮さん、三三子さん/5

 近くの寺に避難して9日目。岩手県釜石市の鍼灸(しんきゅう)師、中村亮(りょう)さん(57)は下痢と高熱に苦しんだ。「迷惑をかけたくない」と耐え忍んだが、10日目に嘔吐(おうと)し、自衛隊の医療班に点滴してもらった。「見えないストレスで憂鬱になった」と亮さん。その思いは、視力を失った青春時代の記憶に重なる。
 左目の視界の上に黒点が現れたのは高1の夏。柔道部の合宿中だった。新学期には「黒いカーテン」が下がるように視野が狭くなり、「網膜剥離」と診断された。盛岡の病院に半年入院して2度手術したが「回復不能」と言われた。
 1年間留年して高校を卒業。「大学で地理の勉強をしたい」と東京都内の予備校に通った19歳の夏、今度は右目の視界上部がキラキラ輝き、窓枠が曲がって見えた。再び「網膜剥離」の診断。釜石の実家に戻り、静養した。失明におびえて、部屋にこもってもんもんとする日々。金魚鉢を通して反対をのぞくように、すべてがゆがんで見えた。
 9月に入院して手術。11月の退院時には一人でなんとか歩けたが、翌年2月に再発した。「手の施しようがない」と言われ、5月に光を失って「人生の意味」まで失ったように感じた。
 閉じた心を開くきっかけは「指先で読む点字」との出会いだ。「教えてやる」と近所の視覚障害者が家庭教師を買って出てくれ、通信教育も受けた。22歳で盛岡の盲学校の専攻科に入学し鍼灸の技術を学び、栃木の治療院で修業の後、29歳で治療院を開業した。
 そして、30年近くたって津波に襲われた。亮さんの体調は、2日ほどで回復した。そのころは同室の人々に誘われてストーブを囲み、言葉を交わすようになった。「じゃあ、はりを打ってもらおうかな」。男性の声が聞こえたのはそんな席でのことだ。避難所での「出番」だった。
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by wappagamama | 2011-07-11 21:27
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