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暑かった角館その2


 エルモの落ち着き場所も決まり、ゆとりでほっと一安心していたとき、朝食をとってこなかった事に気づいた。
あわててリュックから、パンと缶コーヒーを取り出しムシャムシャ食べていたとき、「ただいまより開会式を行います」
そういえば わたし 本日のスケジュールを何も聞いていなかった。

 「ま いいかぁ マイペース マイペース」今度から少しくらい行動がずれていても気にしないことにしよう。
そう思ったらとたんに気が楽になり、何もかも人と調子を合わせることはないのかも… と気持ちを楽にすることにした。
そして、おもむろにエルモに話しかけた。
「はじまったからね、エルちゃんここで待っててね」
そして、それぞれのコートが決まりわたしはさらにエルモから遠いコートへと移動しなければいけなくなった。

 ここでまた そのままエルモから離れ遠くへ行ってしまえば、いつものように同じ失敗を繰り返すことになる。
「くわばら くわばら」わたしは回れ右をしてエルモのいる方向へと足を進めた。
その距離は数M。 ばっちりエルモのところへ。わたしが近づけばエルモは立ち上がって尻尾を振って足踏みをしているのでカチャカチャ爪の音がする。
「エルモ お利口さんだね よしよし偉いよ。頭を撫でながら次の指令を出した。
「エルモ かあさん少し離れるからね、ここで待ってなさい。エルちゃんのところからちゃんとかあさんが見えるからね、 安心して待ってなさい」と今度は少し強めにチョークをしてから、両手でエルモの顔を挟んで鼻をくんくんしてあげた。
エルモはまるでそれに答えるかのように、わたしにお手をしてくれた。

 そこからたちあがってふたたび回れ右をし、奥のほうの目的のコートのメンバーの声のするほうへ足を進めた。
その空間は広い体育館なので、壁などの目的物がないため人の声だけが頼り。
何か障害物があったとしてもこんなところでは怪我の心配もないし、誰かが見つけてくれれば手を貸して誘導してくれるだろうと思ってどんどん進んでいった。

 弱視の人たちも近づかなければ見えないので、結局目的地直前まで誰の手も借りずに歩いた。
椅子に誘導してもらい、順番待ちをしていたとき、向こうの隅っこから「クーン クーン」と微かなエルモの泣き声。
エルモからはわたしが見えている。
(エルモ うるさいよ 静かにしなさい」と言ったけど、体育館の中は歓声や卓球音でどよめいている。
だからわたしのその声などエルモには届かないだろうと思っていた。
だが エルモはその後ピタッと泣かなくなった。

わたしがコートについて練習をした後、椅子に腰を下ろすとまた「クーン クーン」と微かに声を出している。
盲導犬はエルモだけしかいなかったので間違いない。
「エルモ うるさいよ 静かにしなさい」と再び同じ事を繰り返した。
やはりその後泣き声はとまる」

こんなにうるさいところでもエルモにはわたしの声が聞こえているんだ。
そのことに気づいたとき、わたしは背筋がぞくっとした。
そしておもわづ立ち上がりエルモの方へ向かった。
同じようにエルモの爪音のする方へまっすぐ到着。
「シーッ! シーッ わたしは口に指を当てて 静かにしなさいの支持を出した。
エルモはうれしさのあまりその喜びを全身で表している。
でも ここでわたしがそれに反応するとなおさらその喜びが激しくなるので「静かにしなさい!」と戒めなければいけない。
そこでまた 二人は水分補給をし再び離れるセレモニー。

 午前と午後にわたってそんなことを2回ほど繰り返していたら、その様子を見ていたとボランティアさん。
「このわんこちゃん ズーッと おかあさんから目を離さないで見ていましたよ」とのこと。
そして「おかぁさんは結構目が見えているんですね」
手をかそうかどうか迷いましたが大丈夫そうでしたから… とのこと。
そうだった 「手を貸してもらいたいときはこちらからお願いしますので」といったんだっけ。

 そういえば 昨日はじめてあった横手の会員さん、弱視の若い男性だったが、電車からバス・タクシーへと移動する際いつもそばについてくれていた。
勿論いつもエルモの誘導で仲間たちの声のする方向へ付いていくのだから特に心配なことはなかった。が 最初その男性がサポートをしてくれていたが「あれっ 柿崎さん 弱視だったんですか? 、かなり見えてますよね?」

そう わたしは 独りでいるといつも、全盲だとは見られない事がよくあるのです。
だが それがいいときもあれば、困ったことに綱狩ることもあり中々難しいのです。

by wappagamama | 2010-06-15 00:10
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