直前まで、 折角の話がごわさんになってしまうかもしれない…
いや こんなことで壊れてしまうような話ではない… などと、わたしの心は揺れ動いていた。
そこへかかってきたのが、Sさんからの電話。
「彼は 柿崎さんの指示通り湯沢に向かっています、間違いなく時間までには到着しますのでどうぞご安心ください 」
秋多発 湯沢着(ちゃく)、9時45分。
この電車で彼とはじめて出会って、それから24時間後の翌朝、9時48分初、新庄行き、くしくも同じ電車に乗って彼は次の拠点へと移動した。
ほんとうは、山形の酒田までうちの息子が車で送っていくという話になっていたのだが、Oちゃんと飲んでいるうちに、調子に乗って飲みすぎてしまったらしい。
うちの息子も決して弱いほうではないのに、Oちゃんのそのパワーには全く歯が立たなかったようだ。
翌朝Oちゃんは けろっとしているのに、うちの息子は完全な二日酔い状態だったようだ。
山形までの運転は到底無理と思って、湯沢駅まででかんべんしてもらったという大ハプニング。
帰り支度をしているOちゃんに、息子は、「ほれ これ持っていけ」と、体節にとっておいた泡盛の小瓶を、カチャカチャ渡していた。
まるで、兄と弟のようなその光景に、思わず顔がほころんだ。
どこへ行ってもこのようにOちゃんは、素直に人の心に入ってしまうんだろうなと…。
車のドアの前でOちゃんは「おかあさんこっち」と指パッチンをしてわたしを呼んだ。
反射的に指パッチンのする方へわたしは手を伸ばした。
その手をグイッと強く引っ張り、彼はわたしの肩に両手を回して抱きしめてくれた。
彼の胸の中に埋もれたわたしの耳元に「おかあさんありがとう 行って来ます 必ずまた来ます」……