一本の電話その5「夢の鳥海山」



 Tさんとの出会いから、ドレくらいの日数が経ったろう?  
患者と施術者としてたった1時間ほどのその時間は、わたしを未知の世界へといざなってくれる。
わたしにとってはれっきとした仕事なのに、こんなに楽しくっていいのだろうかと思うほど、その治療時間が短く感じていた。


 ある日 治療中に突然tさんがこういった。
「柿崎さん、鳥海山さ登り丁稚毛者?」
「アレッ? おれ そんたごどしゃべったっけが?」と言いながらも、言った覚えはないなー?と首をかしげた。 
Tさん「ううん? うでにゃ? チョット聞いだっけがらだ?」
おかしいなー?誰から聞いたんだろう? 学校の講話では「わたしの夢は鳥海山に登る事」などと話しはしているが…。
いくら顔の広いTさんでも、わたしが学校でそんなことを話しているなどとは知るはずがない。


 ろくに運動もしていないのに、いきなり素人が鳥海山なんかに登れるのだろうか?
ウォーキングでもして、足腰を鍛えていなければいけないのでは? 
靴屋着ていくものもないし。
何よりユーパスも一緒でいいのだろうか?
などと不安剤量だけをズラズラだらだら並べていたら、
Tさん「そんたごどなえもしんぴゃするごどにゃ? 柿崎さんがいぎでぁが いぎでぐにゃが気持を聞いでるなだ? 柿崎さんがホントに登りでぁなだば、登ろ!」
なんとまぁ 簡単な話しだろう?


 あっけに取られて数日、トレッキングシューズ、登山用のズボン、それにポケットが一杯付いた登山用のベスト、それにオリンピック選手用のジャンパー。
さすが やっぱり それ専用のものがあるんだ。
汗をかいてもさらっと乾く素材。
膝をぶっつけても怪我をしないようにサポートが付いているズボン。
残雪のための防水防寒ジャンパーなどなど。
初心者の登山用シューズから、早速試着。ピッタシ。


 鳥海山の雪解け具合・お天気具合・わたしの仕事具合・同行者の都合などをすべて考慮して、日程が決まった。
視力がまだあった若いころの夢だった「鳥海山登山」
ぼやけていく視力で眺めた鳥海山。
柳田橋を通過するバスの中から眺めた、夕日に沈む鳥海山。
いずれこの景色も見えなくなってしまうことを思い、涙でむせんだ鳥海山。
せめて せめて視力のあるうちに一度登ってみたいと願った鳥海山。
あれから半世紀が過ぎた今、こんなにも簡単に・こんなにもあっさりとその夢が叶おうとしている。  次回へつづく


 
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by wappagamama | 2009-02-13 14:28
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